AI時代にも必要なヒアリング力と課題発見力|広告分析からの気づき

AI時代にも必要なヒアリング力と課題発見力

AIに分析を任せられる時代になって、マーケターの価値はどこに残るのか。私はその答えの一つが、ヒアリングと課題発見にあると考えています。先日担当したBtoBサイトの広告分析は、まさにそれを実感した案件でした。

データを見る力ではなく、何を探すかを知っていたことがポイントになっています。

目次

相談時の質問が成果を分けた

お客様から「Google広告の成果が最近落ちているから分析してほしい」という相談をいただきました。そこで私は「成果が落ちているとは、具体的にどの部分ですか?」と質問します。そしてお客様から「新規顧客の集客が減っている。新規顧客の集客が減るとビジネスが頭打ちになるので困っている」という回答がありました。

私が聞いたのは、データではなく困りごとです。そして重要なのは、この一言があったからこそ、私は新規顧客とリピーターの差分という切り口でデータを見にいったという点にあります。

もしこの質問がなく、アカウントの数字だけを渡されていたら、私も気づかなかった可能性が高いと思っています。なぜなら、管理画面上の数字は良好だったからです。コンバージョン単価は設定していた目標値を下回っており、かなり好調に見えます。

しかし実際に分析をすると予算の6割以上をリピーターの獲得に使っており、新規顧客が減っているという状況でした。

  1. リピーターの方がCPA等の数字がよい
  2. リピーターに予算を寄せる
  3. リピーターの獲得により注力される

機械学習が進んでいるからこそ、このような構図が完成していました。

なぜ他の運用者はたどり着かなかったのか

このアカウントは、過去に複数の運用者が断続的に関わってきた経緯がありました。それぞれが広告運用の技術を持った方々です。

にもかかわらず、今回の問題は指摘されていませんでした。打ち合わせの場でも、お客様から「誰も指摘したことがないですね」という言葉がありました。

理由を考えてみると、他の運用者はCPAを下げることに集中していたためだと思います。

CPAは、広告運用における標準的な評価指標です。これを改善することは、運用者として何も間違っていません。しかし今回のアカウントでは、その指標を追うほど事業の目的から離れていく構造になっていました。

指標の改善に集中していると、指標そのものを疑う視点は生まれません。ここが本件のポイントになったと思います。

私が実際にやったこと

1. 事業側が持っている数字を聞く

最初にやったのは、分析ではなくヒアリングです。月あたりの資料ダウンロード件数として、事業側が把握している数字をうかがいました。

これは後から振り返ると、今回の分析で最も重要な工程でした。この数字はGoogle広告やGA4には存在しない、お客様の経営情報だからです。もちろんイベントの設定を正しくすることで管理画面でも把握できるようになりますが、そこまで設定できていることはほぼありません。

2. 聞いた数字と計測値を突き合わせる

うかがった件数と、アクセス解析ツールのイベント計測を比べたところ、計測値のほうが約2倍という差がありました。イベントの発生回数で見れば、差はさらに開きます。

差の正体はリピーターの重複でした。同じ人が複数回資料をダウンロードしているため、イベント発生数が膨らんでいたのです。お伝えすると、体感値と一致するという反応をいただきました。広告の管理画面上でも同様のことが起こっており、リピーターのCVがかなり増えていました。

ここで、どちらの数字を事業のKPIとして見るべきかという問題が浮かび上がります。

3. 新規・リピーターという切り口でデータを見る

相談の内容が新規登録者の減少だったため、私はデータを新規とリピーターに分けて見ました。ここが、コンバージョン単価を追う見方との決定的な違いです。

確認したのは3点です。

  • コンバージョンの定義。新規の1件もリピーターの1件も、同じ1コンバージョンとして計上されていた
  • キャンペーンごとの予算配分。全体の6割程度が指名キャンペーンに入っていた
  • 広告経由の流入比率。リピーターが初回訪問者の3倍から4倍という比率でした

指名キャンペーンは、社名やサービス名で検索した人に広告を出すものです。サービス名を知らない新規ユーザーが、そのサービス名で検索してくることはほとんどありません。つまり指名キャンペーンの予算は、大部分がすでにサービスを知っている人に使われていたことになります。

指名検索に広告を出すべきかは議論がありますが、予算の6割は正直やりすぎかなと思います。指名検索で広告を出さなくても本サイトにアクセスが見込めるので、予算配分は見直した方がいいという結論になりました。

4. 本件で起きていた構造を把握する

ここまでの事実を並べると、起きていたことが一本につながります。

  1. 新規もリピーターも同じ1コンバージョンとして計測している
  2. リピーターはサービスを知っているためCPAが低い
  3. 機械学習は、単価が安く取れるリピーターへ予算を寄せていく
  4. 管理画面のコンバージョン単価は下がり続ける
  5. 一方で新規には予算が回らず、新規登録者は減っていく

お客様が感じていた新規登録者の減少と、管理画面の良好な数字は、同じ現象の裏表でした。

5. 予算を新規に寄せる判断をする

対策としてお伝えしたのは次の3点です。

  1. 会員リストを広告アカウントに連携し、既存の会員への広告表示を減らす
  2. 指名キャンペーンは設定を変えず、予算だけ下げる
  3. 新規ユーザー獲得キャンペーンの予算を上げ、除外リストを適用して新規獲得に専念させる

広告費は変えず予算配分を変えることで、新規顧客の獲得を狙います。実際に運用をするのはこれからなので、様子がどうなっていくかは定期的にチェックしていきます。

本件をAIに任せた場合はどうなったのか

私はアクセス解析ツールをAIに接続して分析に使うことも多いです。そこで今回の件を振り返り、AIに任せていたら同じ結論に到達できたかを整理しました。

丸投げでは見つからない

結論としては、聞き方次第で気づけると思います。ただし「分析してください」と丸投げした場合は、ほぼ確実に見逃すと考えられます。

「広告を分析してください」とAIに指示するとCPAが目標を下回っていれば、指示がない限り順調だと報告される可能性は高いです。悪い数字は疑われますが、良い数字は疑われないまま通過します。これは他の運用者が陥っていた状態と、構造としては同じです。

起点となった情報は、そもそもデータの外にあった

今回の分析には、データに存在しない情報が2か所で決定的に効いています。

1つは、新規登録者が減っているという相談そのものです。もう1つは、お客様側が把握していた資料ダウンロード件数です。どちらもツールには入っておらず、会話からしか得られません。

AIが優秀かどうか以前に、入力すべき情報を持っているのは人間の側だけだということです。

本件から学んだこと

設定変更を入れた直後は再学習が走るため、パフォーマンスは一時的に落ちます。そのため3か月ほどの期間を見る前提で進めています。

一方で、実行前の段階でお客様から評価をいただいた点は、私にとって収穫でした。評価されたのは分析の技術そのものではなく、他の運用者が誰も指摘しなかった課題を見つけたことです。

ここから得た気づきは、次の3点です。

1つは、課題を教えてくれるのはデータではなくお客様だということです。新規登録者が減っているという一言がなければ、私は新規という切り口でデータを見ていない可能性が高いです。

2つ目は、標準的な指標を追うだけでは、その指標が事業とずれている場合に気づけないということです。CPAの改善は正しい行為ですが、正しい行為であるがゆえに疑われません。

3つ目は、AIに接続しても問いは人の側に残るということです。接続は検証を速くしますが、何を検証すべきかは決めてくれません。

AIによる分析は今後も進化していきますが、課題をヒアリングして発見することは、まだまだ人間が担う部分です。トビラマーケティングはこれからも課題を発見し、それを解決することを続けていければと考えています。

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この記事を書いた人

伊藤大智のアバター 伊藤大智 トビラマーケティング代表

BtoBマーケティング支援『トビラマーケティング』代表。BtoB企業に不足しているマーケティング責任者のポジションを引き受け、戦略立案から施策実行まで幅広くサポート。ベネッセ・日本HPなど大手企業との取引も多数。受賞・資格:ランサーオブザイヤー2022・上級ウェブ解析士・SEO検定1級・デジタル庁デジタル推進委員

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